最新情報2005.06卵子提供

卵子の凍結保存は果たして可能なのか?

弊社IFCへの最近のお問合せの中で、このようなご質問をいただきました:

「医療先進国であるアメリカ、その中でも特にIFCさんと提携されているパシフィック生殖医療センター(PFC)は北カリフォルニアで最も権威のある生殖医療機関のと聞いていますが、PFCでは卵子の凍結保存をしてもらえるのでしょうか?」

これと類似したご質問は、最近独身の女性、あるいは癌治療を目前とされている女性から、子供をもつ準備ができたときに使用できるように、あるいは癌治療などで卵巣機能が低下しないうちに、ご自身の卵子を凍結保存できないか、ということでよく頂戴するお問合せとなっています。

多くの方がご存知の通り、精子のみの凍結、或いは受精卵(胚)の凍結は、広く安全に一般的な生殖医療の技術として行われています。
しかし、授精する前の卵子だけの凍結、ということになると状況は異なっています。

上記のような卵子のみの凍結についてのご質問に対し、著名なエンブリオロジスト(胚培養士)であり、PFCのラボラトリー・ディレクターであるジョー・コナハン博士*は次のようにコメントしております。


「卵子の凍結技法はおよそ20年前にイギリスで画期的な技法として初めて発表されたが、その後この技法を発表した開発者本人を含む多くの研究者がこの技法により卵子の凍結再現を試みてきたが、これまで安定した結果は出せていない。
今日素晴らしい先端技術として卵子の凍結技法が多くの雑誌等に紹介されてはいるのだが、実際に凍結された卵子を解凍後妊娠に至るのは全体の1%未満という結果に終わっているのが事実だ。

人間の卵子の凍結は長年に渡って熱心に研究されているが、未だに精子/受精卵の凍結保存のように治療として信頼に足る技法が確立されていない。

人間の細胞を凍結可能にするには、細胞内の水分を凍結することが絶対条件である。
しかし水が氷になる時その容積が膨張するので、凍結する場合は細胞が破裂するのを防ぐため先ず細胞を脱水しなければならない。
精子は人間の細胞中最小であり水分も非常に少ないため、凍結に非常に適している。
精子に比べて卵子は人間の細胞中最大であり水分も非常に多い。
卵子はまた非常に繊細で凍結/解凍時の薬剤及び取扱い時の刺激に耐えられない。
さらにもし卵子が水分の凍結及び凍結/解凍時の刺激に耐えられたとしても、凍結保存を行うことで起こる卵子をとりまく環境の変化によって、卵子の染色体半減期に染色体数異常を起こす可能性がある。

学会の論文で卵子凍結の成功を報告しているもののうち多くの報告は非常に少ない患者数でさらに少ない妊娠/出生数を元にしておこなわれている。
しかし多数のケース数をみた研究としては、2000年にPorcu博士が1502個の卵子で、また2001年にFabbri博士が1769個という多数の卵子でそれぞれ凍結保存を行なった。
結果は両者共凍結解凍後の卵子の生存率が全体の50%強であったという。
Porcu博士の場合は解凍後生存した卵子のうちその約半数が受精成功したもののグレードの良い受精卵はその50%、さらに受精した卵子のうち実際に出生した子供の数は9人で、その時点で妊娠中が7人であった。
Fabbri博士に至っては解凍後生存率及び受精成功率以外は未だ発表していない。

多くの研究者が卵子凍結技法の改良を続けているが、その成功例の多くは現在のところ若い女性の良い卵子によるものである。
上記Porcu博士の研究でも、多くは若い女性の良い卵子を使用している。あまり研究例がないが、年齢の高い女性の卵子の場合は成功例も少なくなると思われる。
結果として、卵子の凍結についてはいろいろ騒がれてはいるが新たな技法が確立されるまで、しばらくの間は信頼に足る治療として使用することは出来ない。
現状、卵子の凍結保存はとりわけ比較的年齢の高い女性にとってはあまり期待できる技法ではない。」


コナハン博士のこのコメントにがっかりされる方もいらっしゃるのではと思われますが、PFCでは患者様及び生まれてくるお子様の安全を先ず第一に考え、決して患者様を実験台につかわないというポリシーがあります。
もちろんPFCには卵子凍結保存も受精卵核移植等も技術的には充分に行なえる力がありますが、まだ世界全体として成功例が少なく治療としての安全性が確立されていない技術の提供を積極的に患者様にもちかけることをPFCは望んでいません。
PFCでは患者様の安全を守るには、生殖医療倫理をきちんと守ることが非常に大切であると考えているからです。しかし、患者様を実験台に使うことをしない手段で、PFCの技術者は卵子凍結に関する研究には極めて積極的に参加しており、卵子凍結技術が進み安全且つ信頼できる技術として患者様にご紹介できるようになった段階ですぐに実施できるような環境づくりに備えております。

ここで付け加えさせていただきたいのは、患者様に実験的治療をしないという事がすなわちPFCが保守的な医療機関だということではない、ということです。
一例を挙げれば、成功率がさがるという理由で他の生殖医療機関ではなかなか受け付けようとしない、さまざまな合併症を持つ患者様のケースや、難しい状況の患者様を、PFCでは自らの全体としての「見かけの」成功率を犠牲にしてまで受け付け、困難なケースにもひるまず取り組んでおります。

 

*ジョー・コナハン博士は、PFCの生殖補助医療ラボラトリーの最高責任者で、受精卵についての研究功績で国際的に認知されている。
コナハン博士は世界で最初の受精卵着床前遺伝子診断(PGD)に関与した経歴がある。博士の高水準で広域な経験は、PFCのラボラトリーに国際的評価をもたらしている。
博士は同ラボラトリーの研究員にエンブリオロジスト免許取得への教育を行うと共に、米国病理学会認定生殖ラボラトリー検査官であり、米国の体外受精ラボラトリーに対して認可を与えるコミッティーの一員である。
尚、本文中のコナハン博士のコメントはPFC Fertirity Flash:2005年1月号からの要約である。

■この記事の無断転載を固くお断りいたします。
Copyright©2005; Pacific Fertility Center; IntroMed, Inc. IFC

関連情報