最新情報2000.01卵子提供

「卵子提供」日本で解禁か!?

夫以外の精子や妻以外の卵子を使った体外受精について、日本産科婦人科学会の倫理審議会が、「条件つきで実施を認める」という内容の見解をまとめたと発表されました。
これは、このような治療プログラムを必要とする日本在住のご夫婦には朗報と言えるでしょう。少子化を問題視する一方で、不妊治療に理解を示しているとは思えない保険体制や方針がまかり通っていた日本でした。しかし、これからはもっとオープンに討議がなされ、不妊に悩むご夫婦が適切な治療を受けられるような環境が整えられる大きなステップが踏み出されたと言ってもよいかもしれません。

しかし、私共IFCでは、IFCのクライアントご夫婦の立場を通して熟知することとなった日本の医療体制の現状、そして、アメリカの不妊治療の現場を分析するにつけ、日本で実際にスムーズに卵子提供プログラムが行われ、高い成功率が期待できるようになるまでには、何年もの年月が必要であろうと判断しております。

日本で実際に卵子提供プログラムが実施されるまでにはどのくらい年月がかかるか?

アメリカのようにオープン且つ合理的な考えを持つ人々の多い国でも、非常にコーディネートが困難な卵子提供プログラムを安定した高い成功率で継続させるためには、やはり10年という長い月日が必要でした。

卵子提供プログラムの成功のためには、多くの要因が満たされることが必要となります。中には、日本でも比較的早く準備のできる部分もあります。それらは、以下Aに、そして、現在の日本の状況下では、かなり時間がかかるであろうと思われる部分を以下Bにまとめてみました:

A:日本でも比較的早く準備可能な要因

  1. 医療関係者(医師や看護婦)の技術の高さと臨床経験の積み重ね

    これは、要因の中でも一番たやすいものでしょう。医療技術としては、日本にも充分に存在するからです。
    後は、このような二人の全く別な女性の月経サイクルを合わせた上で体外受精・胚移植を行う、という臨床経験の積み重ねを経た学習だけ、となります。アメリカなどの最先端の臨床報告などをもとに、多くの資料が事前に手に入るはずです。

  2. ラボラトリー(研究室)においての綿密かつ正確な管理体制(ドナーとレシピアントの組み合わせ、夫の精子などの管理:組み合わせに間違いが起こってはならない)

    書類管理と実際の精子、卵子、受精卵の管理の体制を徹底的に整える必要性があります。カルテだけではなく、多くの書類が必要となり、正確に組み合わせが行われなくてはなりません。夫婦だけのものである場合はさほど難しくない管理が、たった一人、第三者が加わることにより、非常に書類管理が複雑となるものなのです。これも、日本でもさほど時間がかからずに準備ができることでしょう。

B:日本で体制を整えるまでに長い時間が必要とされる要因:

  1. 卵子ドナー候補者の募集体制:「『内診』はイヤ!」
    卵子ドナーになる、ということは、博愛の気持ちの他に、勇気と時間と忍耐力を必要とする、本当に大変な仕事だと言えます。
    一昨年の根津先生の一件が報道されてから、私たちIFCにも、多くの日本人女性から卵子ドナーになりたい、というお手紙やEメールをいただきました。しかし、その多くの方が、卵子提供を「献血すること」と同程度に想定いらっしゃり、ご自分の都合のよいときに病院や保健所に出向いて、「卵子を採取してもらう」ことで、卵子提供ができると考えられていらっしゃったのです。
    全行程に少なくとも3ヶ月を要し、注射や薬品投与を行わなくてはならないことなどは、ご存じの方が非常に少なかったのが事実です。情報の少ない日本では、これは当然のことかもしれません。つまり、卵子ドナーを教育する、ということは、まず一般社会を教育する、ということであり、このような情報を浸透させるには、非常に長い年月を要します。
    アメリカでは、高校生や大学生のうちに、若い女性が婦人科へ赴き、自分の身体をチェックすることは常識となっています。20代になると子宮頸ガンの検査などのために、年に一回は婦人科で内診を受けることも当たり前のこととなっています。
    それに比べ、日本では、不妊だと感じてから初めて婦人科に足を踏み入れた、という方が多いのに驚かされます。日本では、それだけ、婦人科での「内診」というものが、未婚の女性どころか、既婚の女性にとっても「とても嫌なもの」、「できたら避けたいもの」という印象があるようです。
    ドナーとなるためには、生殖力の高い卵子を持つ20代の若い女性が中心となります。その多くは、未婚の女性達ということになります。果たして第一回目の検診でどうしても必要な「内診」を快く受けてくださるものでしょうか?日本という社会で育った場合特に、処女である女性には、とうてい耐えられないことであると考えられます。

  2. 卵子ドナー候補者の事前教育とカウンセリングドナー候補者が揃ったら、次は、その候補者個人に対して事前教育とカウンセリングを行わなくてはなりません。
    事前教育は、薬品や医療処置による身体的リスクを説明し、医学的プロセスや投薬プロトコールの内容を理解してもらう面談が含まれるべきです。これは、日本のように、一人の医師に対して患者の数が余りに多い国では、医師がこのような説明をしている暇はないでしょうから、病院内に、これを専門に行う係員をおかなくてはなりません。
    つまり、そのような係員(看護婦など、医療知識のある専門家でなくてはならない)が常時ドナー候補者の対応に当たらなくては、プログラムは進行しません。このような体制が整えられるのにも、非常に長い時間が必要となるでしょう。

  3. 匿名卵子ドナーとの契約作成
    日本は、アメリカのような契約社会ではありません。この点が何より心配です。このようなプログラムの知識に長けた弁護士が、契約書を作成、ドナー側と夫婦側との間にきちんとした明確な契約を成立させなければなりません。
    これは、遺産相続や、身体的損害賠償など、問題が起こらないように、且つ起こってしまった場合は公正に審議が出来るようにしておくためです。書面による契約、という状況に慣れていない状態でプログラムが始まることは、危険なこととさえ言えます。これも長い時間がかかることが予測されるため、迅速に手配が進められることを願いますが、日本の場合、誰が、どんな専門家がイニシアチブを取るのか、興味深いところです。

  4. 匿名性を保護するための、診療室・待合室、受付・予約の体制
    日本の病院では、有名病院であればあるほど、待ち時間が長いとされています。待ち時間が長ければ長いほど、匿名関係であるはずのドナーとレシピアントがばったり会ってしまう可能性が非常に高くなります。卵子提供プログラムでは、両者が同時に検診を受けなくてはならないタイミングというのが、少なからずあるからなのです。
    完全予約制とは言えない日本の医療体制の中で、どれだけ、この「匿名性」が守られるか、また、日本という非常に狭い国で、匿名性が万が一守られなかったときの、夫婦側、出生する子、そして卵子ドナーの人権などの問題が非常に懸念されます。

  5. 卵子ドナーおよび依頼人夫婦の心理カウンセリングの体制
    夫婦にとっては、「妻の遺伝子を持たない子供」を受け入れるに際し、心理カウンセリングがアメリカでは非常に重要視されています。また、卵子ドナーにとっても、心理カウンセリングは、非常に重要なものです。これは、自分の遺伝子をもった「身体の一部分」を提供するのですから、当然のことと言えるでしょう。
    また、投薬中は、ホルモン剤を投与するわけですから、感情の起伏もあります。これをコントロールできず、また、そのような気持ちをサポートしてくれる心理カウンセラーがいない場合、採卵を目前にして辞退してしまうドナーが出てきても当然のことだと思います。
    心理カウンセリングなど、精神的サポートに関しては、日本ではあまりに無視されすぎていると考えられます。そんな中で、ドナーの心理カウンセリングやご夫婦のカウンセリングがタイミングよく行われなければ、プログラムは成功しないでしょう。
    アメリカのように最先端医療が行われている国では、心理的な部分が治療の是非を最終的に決めてしまうことをきちんと理解しています。特に不妊治療という特殊な環境下にある治療では、心理的な要因が大きな意味を持つのです。
    これから、日本で何年かかるかわかりませんが、心理カウンセリングの専門家にどんどん活躍の場を与えていっていただきたいと思います。

最後にまとめますと、医療技術的には、今日の日本でも充分問題はないはずなのですが、病院のインフラ(内部の体制)、日本の伝統的あるいは社会的な風潮、そういったものがせっかく許されても卵子提供プログラムのような治療方法の普及をこれから何年かの間は確実に妨げていくと考えられます。
これは、あんなに大騒ぎをして決定された、脳死判定による臓器移植がいっこうに進んでいないことからも考えられることです。日本でもこのような風潮を捨て去り、もう少し合理的な世の中になり、本当に治療を受けることを必要としている人々が堂々と、自由に、最高の条件の中で最先端治療を受けられるようになる日が来ることを願ってやみません。

関連情報